西 炯子(にし けいこ)先生が描き続ける日々淡々とした時間の流れが大好きです。ちょっとした仕草にキャラクターのひととなりを滲ませます。
猫が主人公の漫画ではありませんが「チビ」という猫の存在は、家族の大切な一員として描かれているので、なんだかホッとさせられます。
猫飼いさんだったら「お父さん、チビがいなくなりました」というタイトルだけでもドキッとしませんか?
「お父さん、チビがいなくなりました」
小学館コミックス 新装版 全1巻
小学館の漫画雑誌「増刊flowers」 2013年12月号増刊、 2014年3月号増刊、 6月号増刊、9月号増刊、12月号増刊、2015年4月号増刊、8月号増刊に掲載。番外編は2019年4月号増刊に掲載されました。
新装版「お父さん、チビがいなくなりました」は2019年4月15日に発行されました。
西 炯子の生み出すキャラクターの魅力
フフフ、なんでしょうね?この、お父さんの顔。
フフフ、漫画を読んで見てくださいね?
漫画だわー…と笑えるんだけど、笑えないくらい説得力のあるお父さんのオヤジらしい顔。
なのに、漫画を読み始めるとすぐに、お父さんのキャラクターの外見に違和感を感じなくなります。
単純化して描かれる、禿げた頭と丸いだけの目・への字に結んだ口元のお父さん。なのに、こうも単純化されてると、余計に感情を深読みさせられちゃうんですよねーー!
西 炯子先生の画力・策略おそるべし!です。
映画でも深い!西 炯子ワールド
西 炯子先生の「お父さん、チビがいなくなりました」は2019年、小林聖太郎監督により、倍賞千恵子、藤竜也、市川実日子のキャストで実写映画化。『初恋?お父さん、チビがいなくなりました』というタイトルで公開されました。
え?お父さん役に藤竜也?イメージ違うんじゃない?と思っていたらナントこれが、まさに「お父さん」なんです!キャスティングの妙ってやつでしょうか。
実写映画になったらなったで、西 炯子先生の漫画が、色づき・香りたち・温度や湿度を帯びて、さらに生き生きと感じられるので…映画も良いですねえ。
もちろん、監督や役者さんたち、演出のおかげもあるのでしょうが、やっぱり、ストーリーが良いんですよね!
漫画も、映画も、両方楽しんでほしいです!
チビとの日常がグッときます!
猫の「チビ」は…13歳。メス、長毛、まっ黒、体は大きめ、しっぽは長く、首輪なし。目の色は青。(…と、漫画の中で書かれています)
漫画の中に、初めてチビが登場するシーンでは、じっと上目で卓上を見つめています。
夕食が用意される卓袱台の前で、座って待つチビ。
卓についたお父さんとお母さんの間に座るチビの姿と、お母さんがひとりごとのように一日の出来事を話しながらチビにお刺身を与えるというシーンが、3ページにわたって横長いっぱいのコマ割りで描かれます。
お父さんは、なーんにも反応しない。…だから、ひとりごとのように、なんですが…。
なんの返事もしないまま「ごちそうさん」と立ち上がるお父さん。
その背に向かって「おそまつさまでした」と、小さく頭を下げるお母さんが…切なくて平穏な日常観。
そのあとチビと見つめあって…「蓼科 いいねえチビ」「『いいニャ!チビもそう思うニャ!』ねーーー」と会話するお母さんは…もっと切ない!
でもね、こんな感じの猫との一方的コミュニケーションって猫飼いあるあるだと思うんです。すごく、日常を感じるシーンです。
お父さんは、ぶっきらぼうなんですけど、座布団からチビをどかすときの所作に優しさが描かれてます。
帰宅したら、マイ座布団をチビに占領されていて…「こら!」と声でどかそうとするも無視するチビを、抱き上げてそっと座布団から下ろすお父さん。
ぶっきらぼうだけど、乱暴ではない人なんですね。
日常のエピソードが、どれも穏やかに描かれていて、チビがいなくなると日常じゃなくなることを強く意識させられます。